行動経済学の分かりやすい入門。

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さて、みなさんは行動経済学という学問について聞いたことがありますか。実はこの分野、経済学でありながら、非常に心理学と重なるところがあるんですね。
まあ、そんなことはどうでもよくて、今回は、この行動経済学の入門のための知識を分かりやすいように解説していきます。

行動経済学とは何なのか

行動経済学とは、「人間の非合理的な部分を主に扱って、より人間の行動をよりリアルに理解して、それを社会に応用するための学問」です。誤解を恐れずより砕けた言い方をすると、

「人間って必ずしも自分の利益を最大にするように行動できないよね。そのようなケースを多くの人間に適用できるようなモデルとして作ろう。」ということです。

以下のようなケースを考えてみましょう。

あなたは、今、10万円ほどするギターを買うためにお金を頑張ってためている途中です。現在貯金は5万円程度しかありませんが、あなたは最近発売された4万円する、あるゲーム機を買いたくなってしまいました。これを買ってしまえば、確実にギターには遠ざかってしまう。しかし、、、

どうでしょう。このような経験をしたことがあなたにもあるはずです。
このような場合、しばしば人間は目前にある欲望に負けてしまいます。
行動経済学では、このようなケースを科学的に多くの人間に適用できるような(一般的な)モデルを作って、それに基づいて社会を見ていくことを目標にします。

行動経済学で扱うモデル

まずは、行動経済学の中核を担うと言ってもいい、有名なモデルです。

2つの自己モデル

2つの自己モデルとは、その名の通り人間には、二つの自己があると仮定するモデルです。
2つの自己モデルはシステム1とシステム2というものを仮定します。

・システム1…人間の「本能」の部分に支配された思考。先ほどの例では、ゲームを買ってしまうような目前の欲望に支配された思考です。経済学や金融工学などの分野では非合理的と言われるシステムです。
・システム2…人間の「理性」の部分に支配された思考。先ほどの例では、ゲームを我慢して、貯金を続けるような理性に支配された思考です。経済学や金融工学では合理的といわれるシステムです。
この2つの自己モデルを仮定し、システム1とシステム2の発現確率、それらの性質を調査することで、社会的活動に応用できます。自分の興味のあることに当てはめて考えてみてください。

プロスペクト理論

プロスペクト理論について、例を出して説明していきます。
例えば心理学を大学で学んだりしたことのある人なら聞いたことのあるような話ですが

1.お金を1000円無条件でもらうことができる。
2.お金を80%の確率で1250円もらうことができるが、20%の確率で何ももらえない。
この条件があなたに提示されたならばあなたはどちらを選びますか?

この時、非常に多くの人が1番の確実にお金をもらえる方を選ぶのです。ここからはお決まりの議論ですが、実はこの二つの選択肢は同じ期待効用(得られるであろうリターン)を持ちます。期待効用の計算の方法は、リターン×確率です。

1. 1000(円)×1(100%のこと)=1000円
2. 1250(円)×0.8(80%のこと)+0(円)×0.2(20%のこと)=1000円

このように、期待値でいうとどちらも同じなのに、非常に多くの人が1を選びます。
この議論に対するある種の答えを出したのが、2002年にノーベル経済学賞を受賞した、ダニエルカーネマンです。彼のプロスペクト理論は、今の経済学をより豊かなものに広げ、あらたな経済学の分野を作り出しました。プロスペクト理論とは、不確実な状況での人間の意思決定モデルの一つであり、参照点理論により支えられています。

まずこれに関する大事な点2つを明示しておきます
・これがなぜここまで有名な理論になっているのか。
・プロスペクト理論により本当に合理的な選択肢が仮定できること。

まず一つ目の点から見ていきましょう。これがなぜここまで有名な理論になっているのか、それは単純です。
経済学は、社会を見る際に人間の行動を仮定するために合理的経済人というモデルを仮定していました。先ほどの期待値の計算で出てきた値が期待効用ですが、合理的経済人はその期待効用を最大化するために行動すると仮定していました。期待効用は、「その個人の満足度」ともよく言われます。満足度を最大化するのならこれは当然のことに思えるでしょう。しかし、先ほどの例での満足度は同じなのに明確な差が出てしまった。そもそもの経済学の仮定がひっくり返されたような話ではありませんか?それゆえこの問題には、従来の経済学では触れることができませんでした。そんな時にそれに対するある種の解を提示したのがカーネマンだったのです。
次に2つ目の点。ではそのある種の解とは何か。それが参照点なのです。参照点はプロスペクト理論において中核をなす理論です。理解しましょう。

参照点とは、「自分が今持っている満足度」のことです。「今から得られる利益を図る基準」と言い換えても差し支えないでしょう。

例えば、あなたが大学生なら今500円もらったとして、子供のころにもらった500円よりもうれしさは少ないはずです。なぜなら今ならバイトでも30分程度で稼げるような額だからです。しかし子供のころはそんなことできなかったし、親からのお小遣いだってそんなに多くなかったのではないでしょうか(違う人もいるかもしれませんが)。
もっといい例があります。あなたはレストランで大盛りのランチを食べてお腹いっぱいです。さて、食べ終わって満足してるときに、大盛りカツ丼をサービスするとレストランの店長が言いました。お腹が空いてる時とそんなお腹いっぱいの時とでは、うれしさが段違いなはずです(そうでない人もいるかもしれませんが)。むしろ迷惑です。ある種の嫌がらせです。そんなことはやめてください、いくら食べっぷりが良かったからってそれはダメでしょ。。。

まあそんなことは置いといて、とにかく、人はこの基準、つまり参照点を使って期待効用を決定しているとカーネマンは仮定したのです。
さて、先ほどの問題をこの参照点理論から見てましょう。1の選択肢「必ず1000円もらえる」というのがカギです。この話を聞いた時点で、あなたの参照点は0円から1000円に変わっているわけです。つまり、、、
1000円を確実にもらえる→1000円×1=1000円
1250円を80%の確率でもらえる。→250円×0.8+0×0.2=200円
この通り、明確な差が出ていることが明らかになります。気をつけてほしいのは、1000円の方を考える時、参照点は0円ですよ。なぜなら、1250円をもらえる方の選択肢を見ても、我々がこの選択肢を与えられる前でも、もらえる金額が0円という可能性があるわけですから、1000円をもらえる選択肢を考える時、他の選択肢や選択する前の状況を参照点として仮定します。つまり1の選択肢を考える際は、参照点が0円になるのです。対して、2の選択肢の場合、1の選択肢を選ぶというルートがあるため、参照点は1000円となるわけです。

終わりに

さて、ここまでお疲れさまでした。このように行動経済学は主に、今までの経済学ではとらえきれなかった分野を扱います。これは今までの理論の幅が広がり、より豊かになったことを意味します。つまり、今までの期待効用最大化原理や、CAPMのような理論に修正を加えて、よりリアルな理論に自分で近づけていけることを意味します
そう、このような理論やモデルを我々のこれからの社会的活動にどう応用していくかは我々の裁量にかかっているのです。