【統計学】統計学という心理学研究における最重要技術 

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タイトルにもあるように、統計学は心理学を研究する上で非常に重要で、切っても切り離せない、切り離してはいけない関係にあるものです。統計学は、「実験において採取したデータから一定の規則性や不規則性を示し、データの信頼性を検定するための学問」です。これのどこが重要なのか。どんなことを具体的にするのか。早速見ていきましょう。 

統計学の意義とは

統計学の意義とは「実験において生じたデータや手法そのものの信憑性を高める」ことにあります。つまり、自分の実験をより信頼できるものにするための方法論ということが出来ます。具体的にどんな状況で使うかを以下の例を少し見てみましょう。 

統計を使う具体例

ある心理学者は、知能指数が高ければ数学の能力が高いと考え、知能指数が100の中学生と知能指数が110の中学生を集めました。そして同じ数学のテストを行い、実験の結果を以下のようにグラフにまとめました。 

差 グラフ
各知能指数ごとの数学の得点

そして、この心理学者はこの結果から、やはり知能指数が高ければ数学の能力が高いのだという結論を出しました。 

 

さて実は、この実験、かなり欠陥だらけです。統計に関係のあるものを挙げてみるとざっと 

こんな感じになります。 

 

1 知能指数と数学の能力にそもそも関係があるのか。

知能指数と数学の能力にそもそも関係があることが分かっていなければこの研究は無意味です。いわゆる存在問題に着目した批判です。無いものに関しては何を言っても正解ですので、もはや研究として崩壊しています。そして、この知能指数と数学の能力といったように、何らかのある尺度とある尺度の間の関係を調べるためには、相関分析などが使われます。 

2 知能指数が同程度の学生を何人、どのようにどこの地域から、どこの国から集めたのか。

これは標本調査における問題です。普通、ある集団すべてに対して実験を行うのは困難なので、その集団の一部に対して実験を行うのが一般的です。この選ばれた集団の一部のことを標本といいます。この標本はその集団の代わりなのですからもちろんその集団と同じ性質を持っていなくては信頼できません。この標本を抽出するためには、先ほど述べた大数の法則という理論や、ランダムサンプリングといった方法が必要になってきます。 

さきほどの知能指数の研究の例を見ましょう。

今回の例なら、 

・知能指数が同程度の学生は何人程度必要なのか→大数の法則からすると、十分なサンプルサイズということになりますが、大体100人程度いればいいでしょう。

・どのように→無作為抽出法を使います。いわゆるランダムサンプリングのことですが、これは、今回の例なら、日本の中学生全員に通し番号を付けてその番号をコンピューターを使ってランダムで選び出します。 

・どの地域から、どこの国から→まず、「どこの国から」なんていうのは仮説の時点で決めておくべきです。「日本の中学生において、知能指数が高い学生ほど数学のスキルが高い」といった風に。「全世界の人々」なんてことにすればもう大変どころの話ではありません。国際的に大きな組織で調査を行うレベルですね。ですので、仮説を立てる時はある程度文化圏や国、年齢を決めておく必要があります。 

といった感じですね。これらについてはもう少し詳しく、【統計学】オタサーの姫は世界の姫なのか【標本調査】で説明をしています。後ほど見てみてください。

 3 70と75の間の差は本当の差なのか。もう一回実験をすれば全然違う結果になったりする、いわゆるたまたま採れたデータではないのか。

これは2にかなり近い話です。というのも、この「差のたまたま度合い」を検定するには、サンプルが正規分布に従っていることを仮定するのですから。恐らくなんのこっちゃ状態だと思いますが、今回は統計学の手法の紹介だけですので、正規分布や検定の方法などはこの記事では触れません。 

さて、この差がたまたまではないものなのかを調べる際、t検定が最もよく使われている方法の一つでしょう。 

批判と統計学(まとめ)

先ほどの例のように、実験を行う際には、その実験が妥当な研究手法で研究されたのか、データは信頼できるのか、といった問題がつきまといます。研究と称して実験などを行って世の中に新たな知見を与えるのですから、批判はつきものです。ていうか批判されない科学的知見はありません。なぜなら批判とは批判対象の不備や改善点をより良いものへと変えるために指摘することだからです。不備や改善点を指摘するということは、その批判対象を受け入れてそれらの改善点を提案しているということです。つまり。科学における批判とは、僕の愛読書の言葉を借りると、「継承」なのです。そしてその批判が与えられない知見というのは受け入れられない知見であるということと同義でしょう。批判が与えられない知見とは批判のしようが無い知見のことです。例えば 

・神の仰せになることは正しい。なぜなら神であるからだ。といった論理。(トートロジー 

・人それぞれなこと。 

・そもそも科学的でない知見。 

などなどです。 

そして心理学という学問は、「科学的でない」と言われることが非常に多いものなのです。人の心や性格などという人によって変わるだろうし、数値として表しにくいものを扱うのだから当然です。そんな心理学の研究に、「数学的なお墨付き」を与えるのがこの統計学という非常に便利な道具なのです。これは僕の大学の先生が使った表現なのですがなるほど、言い得て妙な表現ですね。批判を受けられる研究と認められるためのお墨付きをもらえる手段がまさに統計学なのですから。何か研究をする際、根拠が乏しい時、このお墨付きはきっと役に立つことでしょう。