臨床心理学ことはじめ② 〜臨床心理学を構成するもの〜

臨床心理学ことはじめ② 〜臨床心理学を構成するもの〜

前回の記事では、「人間機能を改善する」ことが臨床心理学の目的だと言いました(前回の記事)。しかしこれだけでは、臨床心理学の具体的な中身・内容が分かりませんね。人を心理的に援助することは分かったけど、じゃあ具体的にはどうするのか?心理的な援助について、どんな理論が明らかになっているのか?この記事以降は、このような臨床心理学の具体的な中身について、おおまかに説明していきます。

この記事のポイント!
  • 「学問」という言葉の意味
  • 臨床心理学のだいたいの成り立ち
  • 臨床心理学のだいたいの構成

そもそも「学問」ってなんだろう?

「ん?そこから理解する必要あるの?」と思われた方もいるかもしれません。
しかし、臨床心理「学」も数ある学問のうちの一つであります。なので、人々が学問と言うとき、それがだいたい何を表しているかくらいのことは知っておく必要があるでしょう。
ここでおさえておくべき点は次の二つ、すなわち
・学問には「目的」がある
・人々が学問というとき、それには「活動」と「知識」の二通りが考えられる
です。
順に説明しましょう。

歴史的には、学問というものは元々、やりたい人が趣味でやるようなものでした。しかし現代になり、それらが人類にとって役立つらしいということが分かると、次第に学問は人々の生活を向上させるためのものとして発展していきます。そして現在でも、国が研究費を払っているような学問はみな、結果的には生活に役立たせるという「使命・目的」を課せられるに至るわけです。そういう意味で、学問には「人々の役に立つ」という最終的な目的があります。これがひとつ目。

ふたつ目は単に言葉の指している意味の問題なのですが、意外と区別できていない人も多いかもしれません。つまり、人々が「学問」というとき、それには研究や調査など実際の行為としての「活動」を意味している場合と、今まで明らかにされた理論や知見を集めたような「知識」を意味している場合とがあります。いやむしろ、どちらも学問に欠かせないという点からは、この両者は学問を構成する基本的なものである、とも言えるでしょう。

さて、では臨床心理学の場合はどうかというと、勿論その目的は前回説明したように「人間機能の改善」であって、これはまさに人々の役に直接立つような目的であると言えます。さらにふたつ目めの点に関して言えば、次節で詳しく説明するように、「活動」というメインの要素とそれを補助する「知識」とによって成り立っているのが臨床心理学である、と言えるのです。

臨床心理学はどのように形作られてきたか?

上で述べたような「目的」と「活動」・「知識」の大体の関係は、臨床心理学の発展のとてもおおまかな流れを知れば理解できます。古代から、人々は心理的な問題に苦しみつつも、なんとかして巧く生きぬこうと様々な知恵を働かせてきたことでしょう。現代になると、例えば戦争によって心理的な傷を負った人々が増加したように、生活に必要な機能を発揮できなくなった人々を援助し、その機能を回復していく必要がでてきました。彼らを援助するという「目的」のもと、多くの先人たちが試行錯誤しながら様々な援助を考え、実施していくことになります。そして、その中でもうまくいったものは、役に立つ道具・方法としてその後にも受け継がれていきます。
こういった歴史を経たおかげで、今では人間を援助するための様々な理論や方法、つまり「知識」が用意されているし、またそれらを現実の世界に応用する対人援助という「活動」が実際に行われているのです。人間機能の改善という「目的」がまずはじめにあり、それを達成するために実際の援助という「活動」を行い、そのなかで役に立った援助方法や理論をまた使えるように「知識」として保存し、それらを再び次の「活動」に活かす。このような流れが繰り返されることで、臨床心理学は発展してきたのです。

臨床心理学を構成するもの

このように、臨床心理学は「活動」と「知識」の蓄積で成り立っていると言えますが、実はこの「活動」には3つのタイプのものがあります。

一つは、実際の人間を援助する行為である「実践活動」です。実践活動ではまず、相談者の抱える問題についての情報を集めることから始めます。次に、集めた情報から問題がなぜ生じているか、背景や要因などを考察するのですが、このとき臨床心理学がいままで蓄えてきた理論や手法などの「知識」が役立ちます。これら知識を踏まえつつ、どのような援助を行えば問題が軽くなるかという方針を立てることができて初めて、実際の援助を行うことができるのです。

一方、どのような援助方法がより効果的かを探るために行うのが「研究活動」です。研究活動はその名の通り、どのような場合にどの援助方法が適切なのかを、実験や調査を用いて研究することで明らかにしようとします。ある援助方法が適切な効果を持つかどうかを研究したり、新たな援助方法を考案するための研究も含まれます。

また、近年では心の病を訴える人が増えてきていて、臨床心理学的な援助がますます社会から必要とされてきています。その場合、援助行為は実際の人間を相手に行うものなので、社会的な責任をはっきりさせておく必要が出てくるでしょう。

例えば臨床心理学的な援助を行う職業に臨床心理士がありますが、もし誰でも簡単になれてしまうとしたら、果たしてそんな人たちのもとに安心して相談にいけるでしょうか?臨床心理士を育てるための教育をしっかり行い、その能力を養うような機関を用意することも、社会からの信頼に応えるためには必要になってきます。社会からの要求に応えるためのこういった活動を、ここではまとめて「社会活動」と呼ぶことにします。

3つの活動と知識

こうしてみれば、臨床心理学は上記3つの活動と理論などの知識によって構成されている、と言うことが出来るでしょう。しかし大事なのは、これらのうち、臨床心理学の目的からみて最も重要なものは「実践活動」であるということです。研究活動は実践活動をより効果的にするためにありますし、社会活動も実践活動が社会から認められる、受け入れられるようにするためにあります。そして意外なことに、臨床心理学における理論などの知識もまた、実践活動からみれば、相談者の問題を理解するためのツールにしか過ぎないのです。

まとめ

・学問には「活動」と「知識」がある
・臨床心理学は「活動」と「知識」で構成される
・「活動」は、「実践活動」「研究活動」「社会活動」の三種類
・「知識」は、実践活動を行うための道具