【行動経済学】プロスペクト理論を応用してリスク回避度を求める。

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今回は行動経済学でプロスペクト理論の応用例について書いていきます。そして、応用して何をするかというと、「プロスペクト理論から求まったリスク回避度は僕のリスク回避度と近似できる」という仮説を検証していきます。結論から言うとかなりの精度で近似できたので、一般に応用するのもいいのでは?と個人的に考えています。

この記事で分かること!
  • 参照点の判断方法
  • 自分のリスク回避度の求め方
  • プロスペクト理論から求まったリスク回避度を一般に適用できるのでは?という示唆

まずはプロスペクト理論の確認から行きましょうか。

前回、行動経済学の分かりやすい入門で一度お話したことがあると思いますが、プロスペクト理論というのは

【プロスペクト理論】
参照点という財の価値を図る基準点のような概念を使って人の期待効用(消費すること・ものに対する満足度)を説明した理論。

でしたね。今回はこのプロスペクト理論をどのような分野に応用できるのかを考えてみます。

1. 期待効用関数の決定

実は、プロスペクト理論を応用することで、期待効用関数を決定することができるのです。期待効用関数は個人の効用(利得を得たときに得られる満足度)を表す関数です。経済学と心理学というのはかなり親和性の高い学問でして、期待効用関数はミクロ経済学の概念なのですが“満足度”とか言ってる時点で心理学の分野に入ってきそうですよね。そしてこの効用関数は大体の場合、原点に対して凹関数で表されます。イメージしやすいように、簡略化された近似的な式を下に示します。

$$関数①:y=U(m)-\frac{1}{2}λσ^2$$(Bodie, et. al, 2011)

また、上の式を日本語に対応させると、
$$期待効用=期待値-\frac{1}{2}リスク回避度*分散$$
となっています。つまりは「満足度は期待値から個人のリスクの嫌いさを反映させたリスクを差し引いたものである」というある資産の、ある人にとっての期待効用を求める単純な式です。

関連して、
$$関数②:Y=(2x-\frac{2}{λ})-x^2$$
といった式もあります。日本語に対応させると、
$$期待効用=2×確実性等価額-\frac{2}{リスク回避度}-確実性等価額^2$$
ということです。この式は上の期待効用関数とは違って「ある期待効用をもつ資産を確実性等価額からその人のリスク回避度を求める」といった目的で使います。
上記の式で厄介なのはリスク回避度です。普通は過去のデータから期待値や分散は算出することが可能ですが、この個人のリスク回避度というのはきっちり算出できるような式があるわけでもなく、かといって個人が「僕のリスク回避度は○○だよ。」なんて言うことは現実ではまずありえません。だからこのリスク回避度はやはり厄介者なんです。しかしプロスペクト理論を使うのならばこのリスク回避度を算出することができます。

プロスペクト理論の期待効用関数への応用

まず理論としては以下の通りです。

【理論1】

プロスペクト理論は期待効用を説明する理論である。ならば期待効用関数のように期待効用を説明する理論と扱う対象は同じである。つまりプロスペクト理論で求められる期待効用と期待効用関数で求められる期待効用は同値である。

さて、期待効用関数での期待効用の求め方は上の式に示した通りなのですが、プロスペクト理論ではどのように期待効用を求めるのでしょうか。ここで参照点の考え方が役に立ちます。

参照点の考え方

例えば

 

【例1】
1.20万円を80%の確率でもらうことができるが20%の確率で何ももらえないくじ
2.16万円を100%もらえるくじ

 

という二つのくじを考えたときに、二つの期待値は同じなのに多くの人が2を選びます。なぜなら参照点(利得を考える基準)が2番のくじを見た瞬間に16万円にシフトするからです。つまり実際の期待値は

式①:1の期待値・・・(20万-16万)×0.8=3万2千(円) *1*1. 16万円を確実にもらえる基準から考えると、20万円の価値というのは実質4万円の価値です。さらに20万円をもらえる確率は80%なので0.8をかけています。0円の場合は確率をかけても変わらず0円なので省略。
式②:2の期待値・・・(16万-3万2千)×1=12万8千(円)

となります。基準点の考え方が少しややこしいですが、これは参照点はそのくじを選択する際の比較対象で決まります
まず、1のくじの比較対象は最終的に2のくじとなっています。考え方としては以下の論理を辿りましょう。

1. そもそも、1のくじを考える時は「くじをそもそも引かなかった場合と2のくじを引いた場合」を比較対象として採用することができます。

2. そして、くじを引かなかった場合は100%の確率で0円がもらえるわけです。

3. しかし2の選択肢は100%の確率で16万円をもらえるので、選択者が合理的ならばくじをそもそも引かなかった場合は選択候補から消滅します。

4. こういうわけで、2が選択対象となるわけです。

一方で、2のくじを考えるた場合に最終的に参照点に選ばれるのは1のくじ(の期待値)です。どういった論理かというと・・・

1. まず2のくじを考える時、「くじをそもそも引かなかった場合と1のくじを選んだ場合」を比較対象として採用することができます。

2. そうなった場合、合理的な選択者ならば、確実に何ももらえない選択肢を選ぶはずがありませんから、1のくじを比較対象として採用します。

3. しかしさきほど1の選択肢は本当の期待値が3万2千円であることがわかりました。

4. そのため、参照点は(正確に意識していなくとも)3万2千円となるわけです。

さて、参照点の考え方も分かったところでようやく次ページから、期待効用関数の決定にリスク回避度という厄介者を退治することで迫っていきます。

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