【生理心理学】生理的反応からの心の予測

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今回は、生理心理学を紹介します。生理心理学では頻繁に脳活動を扱います。人間の心は脳に存在しているという意識からです。しかしながら、人間の脳を扱うことは技術的な発展が必須の難題でした。そのため、生理心理学が発展したのはごく最近のことなのです。この経緯はどういったものなのでしょうか。また近接領域に精神生理学というものがあります。これと生理心理学は扱っているものは同じですが、名前が違うのでやはり少しの違いが存在します。それは具体的にどのようなものなのでしょうか。見ていきましょう。

この記事のポイント!
  • 生理心理学の定義
  • 精神生理学との違い・共通点
  • 生理心理学的研究手法の変化

生理心理学はどんな心理学なのか

生理心理学とは生理的反応を操作することで心理的要因を探る学問だと言えます。具体的には薬物投与をしてどんな心理的変化が生じたか、といったようなアプローチをします。何を根拠にそんなことを言っているのか、詳しく説明していきます。

まず、独立変数と従属変数のお話をしましょう。

は?

みたいな声が聞こえてきそうですが気にせず進めます!まあ心理学において独立変数と従属変数というのは非常に重要な問題となりますのでここで簡単に知っておくのもよいでしょう。

独立変数と従属変数の関係とは??

まず独立変数と従属変数の関係ですが、これは「原因と結果」の関係と言えるでしょう。独立変数が原因で、従属変数が結果なります。あらゆる研究ではこの原因と結果が必要となります。例えば、スーパーハイパーエキセントリックめちゃすご認知行動療法という治療法の効果を示したい心理学者がその治療法を試した被験者群と、その療法を試さずに普通の生活をさせた被験者群を二つ用意して実験した結果を考察した研究があるとします。

この研究の場合、独立変数は治療法であり、従属変数は被験者群となります。

確かに、このなんちゃら認知行動療法の有無が原因となって、それによって何等かの結果があるという関係になると思います。また、このことから、独立変数は実験者が「操作する変数」、従属変数は独立変数に「操作される変数」であるということができます。

そして、実は、論文のタイトルは独立変数と従属変数を含んで作られます。

すなわち、例のような研究があった場合は、

「スーパーハイパーエキセントリックめちゃすご認知行動療法による○○患者に対する効果の実証研究」といったようなタイトルになるでしょう。

 

さて、ここまでの話を考えたとき、多くの心理学の分野の名前も同じような関係になっていることが分かります。すなわち、

 

認知心理学 「認知のバグや仕組みを解明することで心理にアプローチする学問」

社会心理学 「諸々の社会的活動の仕組みや参加者の行動を研究することで心理にアプローチする学問」

 

といったような風であります。つまり、生理心理学というのは、

 

「ホルモンや生理学的反応をいじって心理を考察する学問」

 

であるということができます。

 

生理心理学の方法論と歴史

「ホルモンや生理学的反応をいじる」と言いましたが、これはたとえ話半分、実話半分です。実は、ほんとに昔は「いじっていた」のです。生理心理学の歴史を辿ることでどういうことか見ていきましょう。

生体をいじくることで精神を解明する方法

破壊法
例えば、脳を損傷させたり、薬物投与によって一時的に機能を停止させたりすることでなくなった機能を見る方法が最初使われていました。これを破壊法といいます。昔から脳の場所ごとに機能が異なるのでは?という疑問はあったようで、実際に動物に行っていました。また、第一次世界大戦ごろからピストルの貫通力が上がったことによって脳の一部を損傷した兵士が増加するにしたがって、脳機能の知識や研究も増えてきたという背景もあるようです(wikipedia 調べ)。また、このような人間の例もあったのですが、無くなった機能の大きさや程度、部位がまちまちなので現在はラットなどを使って観察しているようです。

刺激法
ある脳部位に電気刺激や磁気刺激を与えたり、薬物投与をすることで活性化させ、どの機能が向上したか、またエラーが出たかを調べる方法です。

これらの方法はまさに実際に生体を物理的にいじくることで脳機能や精神構造を解明しようとしたシンプルのアプローチです。非常に分かりやすく、直観的な反面、大きな問題があります。そう、倫理の問題です。これらの方法は人間に行う事は稀です。手術する患者に許可をとる・安全性の検査は欠かさない、といった配慮ももちろんあるのですが、やはり倫理的に問題が生じやすい方法です。そのような背景があって、こういったアプローチは現在の心理学者は扱うことができません。そのような理由から、生理心理学が発展してきたのはかなり最近のことなのです。

生理心理学の台頭

電気活動記録法
生理心理学が活動できるようになったのは生体の電気活動を観測できるような技術が発展してからのことになります。これも、最初のころはまだまだ物理的な方法でした。例としては微小電極法があります。これはニューロンにとても小さい電極を差し込むことで電気活動を見ていく方法です。何かアクションを起こして電気活動が活性化すればそのアクションはニューロンを差し込んだ部位と関係が深いだろう、といったアプローチになります。しかしながら、これをするには医師免許が必要なうえ、やはりまだ人間に行うには困難な方法です。ここでもまだ心理学者は出番がありません。

脳波測定法
ここからやっと心理学者の出番です。脳波の測定は外部から人の脳の電気信号を間接的に、そして限られた電気信号のみを測定することができます。そうした性質をもつため得られる情報量が多くない欠点があります。しかし脳の損傷などを必要としないという非常に大きなメリットもあります。この、身体的外傷を伴わない測定法を「非侵襲的である」といいます。この非侵襲的な研究手法が確立されてから、人間を対象とした生理心理学が発展してきたわけです。

生理心理学と精神生理学の違い

では、ここからは生理心理学と精神生理学の違いを考えていきましょう。そのため、まず生理心理学の定義をここで正確に記述しようとすると、

生理心理学
精神反応か生理反応を操作することでもう一方の反応を観測する学問

という風になります。

ややこしくて分かりにくい定義だと思います。また、頭のいい人なら、「精神反応を操作する」という記述に引っかかるのではないでしょうか。

普通、ここまでの議論から帰納的に生理心理学を定義するのなら、生理心理学は「非侵襲的な方法を用いて生体に影響を与えたり観測したりして精神を分析する学問」であるという定義が本来は正しいはずです。最初の独立変数と従属変数の話でも言った通り、生理心理学の操作する変数(独立変数)は「生理反応」なのですから。しかしながら、実はもう少し生理心理学は範囲が広いという事実があります。すなわち「精神反応を操作することで生体反応を非侵襲的に観測する学問」も生理心理学の一領域なのです。

この場合の独立変数は精神反応で従属変数は生理反応です。つまり僕は独立変数と従属変数が逆の場合も生理心理学と言いたいわけですよ。昔は後者の学問を精神生理学といったそうです。名前の通り「精神が独立変数で生理現象が従属変数」の学問です。しかしながら、両者は扱うもの自体は同じであるため区別が時折曖昧になります。そういった背景もあり現在は生理心理学と精神生理学は区別せずにひとまとめに生理心理学といっています。そのため生理心理学は「精神反応か生理反応を操作することでもう一方の反応を観測する学問」なんだと僕は主張したわけです。

終わりに

生理心理学はこのような歴史的背景を持った学問で、観測技術の発展に依存して学問として発展してきました。現代では脳波や脳活動の観測技術も上がってきてさらに研究領域が広がってきていますが、やはり前述したように脳波などから得られる情報というのはかなり限定的なのです。といってもネットではよく快眠の音波とか幸せになる脳波を出す音声といったようなものが溢れています。実際にそんなことが可能なのでしょうか?これから、脳波や生理反応を詳しく知ることでそれを確かめていきましょう。

 

参考文献および推奨文献

松本・宇川義一 (2011). 磁気刺激法の安全性に関するガイドライン. 臨床神経生理39, 34-45.

柳井・岡市 (2008). 行動科学における生理心理学的手法の発展. 生理心理学と精神生理学, 26(1), 49-59

Wikipedia (2013). 生理心理学

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E7%90%86%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6