「あなたの苦悩」は何ですか?:ACT(3)

  • 2017.05.31
  • ACT
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まずは苦悩を見つけましょう!

 それではマインドフルネスの技術をお伝えします!……と行きたいところなのですが、その前に一つしておかなければならないことがあります。それは「あなたの苦悩」をはっきりさせておくということです。

その理由の一つとして、ACTではあなたの苦痛と苦悩を扱っていくため、それらを知っておかなければACTを実践することができないということがあります。特に最初に扱うマインドフルネスでは、あなたの苦痛に対する「思考を」見る(つまり、苦悩を見る)ため、その苦悩自体を知っておかなければ手の施しようがありません。また、「なぜ、苦痛ではなく苦悩の方なの?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、それは苦悩を知ることが苦痛を知ることにも繋がるからです。例えば、「会社の上司に怒られて、自分は駄目な人間だと感じた」という苦悩があるとすると、その苦痛は「会社の上司に怒られた」ことか、もしくは「会社の上司」そのものだとすぐに分かりますよね?

 今から実際にあなたの苦悩を発見するエクササイズをやってもらうことになるのですが、あなたにはここで見つけたものを忘れないように記録しておくことを是非してもらいたいと思います。いつでもあなたの苦しみについて思い出せるようにしておくことは、今後のACT実践をスムーズかつ効果的に行うことができるようになります。媒体はあなたの日記でも、スマホのメモ帳でも、ACT専用のノートを作ってもらっても構いません。ただし、すぐにその内容を取り出せるようにしておいてくださいね。

 また、今後の記事でもこのようなエクササイズを度々取り上げることがあると思いますが、ACTは実践をすることで初めて効果のあるものなので、できる限り実践して欲しいと思っています。それでは一つ目のエクササイズに取り組んでみましょう!

エクササイズ1:苦悩リストの作成

 このエクササイズではあなたが現在抱えている苦悩を見つけていきます。まず初めに一枚の紙を用意してください。用意できましたか? それでは以下のフォーマットをその紙に書き写してください。

 続いて上の表(以下苦悩リストと呼びます)にあなたの抱えている苦悩を書いてもらいたいのですが、その時に、あなたの苦痛に対する反応(思考や感情、身体的感覚など)と一緒に、苦痛自体(他者や状況などの出来事)も書いて欲しいのです。これからACTではあなたがどのような状況でどのように対処していくかを焦点に当てていくので、このことが必要になります。書き方の具体例として次のような苦悩が挙げられます。

良い例:「会社の上司に怒られて、自分は駄目な人間だと感じた」

悪い例1(反応のみ):「自分は駄目な人間だと感じた」
悪い例2(苦痛のみ)「会社の上司に怒られた」

 苦悩を書き出すときのコツは、「自分の苦悩をより具体的に書く」です。苦悩リストには十個のスペースがありますが、必要に応じて増やしたり、それより少なくなっても構いません。今考えられる苦しみを全て出し切ったと思えたら、この苦悩の右隣にそれが続いている期間を書いてください。

 苦悩リストを埋めることができたら、次はその苦悩の重要度を検討していきます。ここで新しい紙を用意して以下のフォーマットを書き写してください。苦悩リストを書いた紙に余白が余っている場合はそこに書いても構いません。

 それでは新たな苦悩リストに先ほどの書き出した苦しみをあなたにとって重要での高い順番に並び替えて書き直してください。重要度は純粋にあなたがどの苦悩を最も負担に感じているかを基準にするとよいでしょう。よく分からない場合は、それらが続いている期間を参考にしてもよいと思います。

 新たなリストを作ることができたら、次はそれぞれの苦悩の関連性を見つけていきます。ここで言う関連性とは、ある苦悩の大きさが変化したら他の苦悩の大きさも変化するというようなことです。例えば、「会社の上司に怒られて、自分は駄目な人間だと感じた」という苦悩と「同僚がひそひそ話をしていると自分のことを悪く言われている気がして息が苦しくなった」と言う苦悩があったとします。そして会社の上司に叱られた後に同僚のひそひそ話がいつもより気になると感じるようであれば、前者は後者と関係があると言うことになります。このような関連性を苦悩間で見つけた場合は、先ほどの新しく作ったリストの右横に苦悩同士を繋げる矢印(⇔)を書いてください。思いつく分だけ矢印を書いてみましょう。一つの苦悩が全ての苦悩と矢印で繋がる場合もあれば、どの苦悩とも矢印で繋がらないものもあるでしょう。これ以上矢印が書けないと思ったら改めて苦悩リストを眺めてみてください。苦悩の重要性は、リストの上の方に書いてあるものほど、また矢印で繋がっているものほど高いと言えます。もしここで苦悩の重要度を変えた方がいいと感じたときは、新しい紙に以下のフォーマットを書いて、改めて書き直してみてください。

 以上があなたの苦悩リストの完成版となります。これからこの苦悩リストに書かれた内容に沿ってACTを実践していきますので、大切に保管しておいてくださいね。

初めてのエクササイズを終えて

 今回の記事では初めてエクササイズを行いましたが、取り組んでみてどうでしたでしょうか? 多くの方にとってはあまり気分のよいものではなかったのではないかと思います。それは当然と言えば当然のことです。自分の苦悩について考えることが気分のいいことだと考える人はいないでしょう。しかし、本当に苦しみを何とかしたいのであれば苦しみと向き合うことが必要になるのも当然のことなのです。そしてあなたは今、その最初の一歩を踏み出すことに成功しました! これからのエクササイズの中にはあなたの気分を悪くするようなものがまだまだあるかもしれません。そんなときは「もうACTなんかやめてしまいたい……」と思ったとしても、その「思考から」見るのではなく、その「思考を」見るようにして自分の思考に惑わされないようにしましょう。

 あなたは苦しみに振り回される人生を歩みたいですか? そんなことはないですよね? より良い人生を送れるようにこれからもACTに取り組んでいきましょう!

 この記事では、「ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)をはじめる (著)スティーブン・C・ヘイズ、スペンサー・スミス 星和書店出版」を参考にしています。